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五十嵐秀彦句集「無量」、吉本宣子句集「木の春」 [俳句鑑賞]



 

 

五十嵐秀彦句集「無量」、吉本宣子句集「木の春」

 

 

 

 

 

五十嵐秀彦句集「無量」

 

平成25年8月刊行の著者の第一句集。

序文黒田杏子、跋文深谷雄大。(いずれも敬称略です)

 

北国の細か雪が厚く降り積もったかのように、しっとりと重たい感触のある句集。

著者である五十嵐さんは北海道の方、やはり雪の句が多い。私も雪国在住であるため、雪をどのように詠まれているか関心があった。

乾いて客観的な口調に静かな情緒、また社会や人生への目線が感じられる作品集。

(以下、句集「無量」より十句)

 

 

 

傷口の奥に雪野の陽の眩む

降る雪に重たき耳をふたつ持つ

月光の告訴満ちゐる口の中

ひとむらの荒地野菊の漂へる

眉を剃る女に雪の汽笛過ぐ

幻影となり父の声雪の声

靴底の雪剥がし黙剥がしけり

極月の鉄路知名の谷をゆく

かなしみにふれんと雪の穴を掘る

赤とんぼ無数失踪者無数

 

 

とくに下の二句に瞠目した。

 

月光の告訴満ちゐる口の中

靴底の雪剥がし黙剥がしけり

 

一句目、月光の明るいなかを一人歩いている。仕事帰りだろうか。仕事で何か諍いごとがあったのだろうか。人物はそのことを沈黙のうちに思い返しながら歩いている。口は堅く結び誰にも心情は話さないが、心中では先ほどの諍いごとがいよよ、煌煌たる月光とともに、かみ殺す口の内にふくれあがってくるのである。

二句目、仕事から帰り、家の玄関にて雪をはらう動作が想い起される。雪国の靴は底がスパイクで、複雑に入り組む迷路のような型に出来ている。厳冬下、雪はシルクのようにきめ細かく、踏みしめられると堅くしまる。玄関で剥がしたスパイクの底の雪は、複雑な型を残したまま、ぱらぱらと剥がれ落ちるのである。その雪の型があたかも、黙して語らなかったけれど心の中では鳴り響いていた、言葉の片々のようだ。

 

 

 

 

 

吉本宣子句集「木の春」

 

平成26年2月刊行の著者の第一句集。

序文中村和弘。(敬称略です)

こちらも、「無量」とは異る重たさのある句集。

どっしりと決まった有季定型に静かに抑えた情緒、そのなか一閃狂気の奔流が垣間見えるような作品集。

特に「火」を使った作品に着目した。序文に触れられてあるとおり、原初性を感じるすばらしい「火」の力と思う。

(以下、句集「木の春」より十句)

 

 

 

夏至の来てまつすぐな木の騒ぎ出し

舌噛めとささやきにくる月夜茸

八方に野火とびまはり父母の国

霧青し父はすばやく徘徊す

木の春を人の容(かたち)に耐へてをり

巫女舞の曲線ふやし空の澄む

十一面の闇雁の渡りけり

閻王や街はうすももいろの雨

雨乞ひのぴしぴし折れる炎かな

竈の火銀河は銀河色を噴き

 

 

とくに下の二句に瞠目した。

 

八方に野火とびまはり父母の国

竈の火銀河は銀河色を噴き

 

一句目、野火が飛びまわるとはなんと躍動的な光景だろうか。まるで火が自ずから意志をもっているように、あちこちへ生殖する様子が浮かぶ。父母の国は己がルーツである国、ととれようか。あるいは、心のどこかで安寧と憧憬を覚えている国、その原野ともとれるかもしれない。

二句目、竈の火は、銀河と組み合わされることによって非常に火勢が強くなったようだ。ごおと勢いよく竈の火が噴く。その様に生命のエネルギーを感じている。火が生まれるエネルギーは銀河が生まれるエネルギーと同一であるかもしれない。銀河は銀河色、竈の中のこの火にも銀河色がのりうつって、蒼くミルキーウェイ色の炎であるかのようだ。見たことのない炎の色。

 

 

 

 

 

今回は句集「無量」、また「木の春」について御紹介させて頂いた。

いずれも、静かな重みのある句集と感じました。

ご恵投真に有難うございました。

 

 

 

 


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