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森須蘭句集「蒼空船」/古田嘉彦句集「純粋雨期」 [俳句鑑賞]

 

 

森須蘭句集「蒼空船」/古田嘉彦句集「純粋雨期」

 

 

 

 

今回二氏の句集を併せてご紹介しようと思ったのは、それが同時期に届いたからということもあるが、読んでいてどことなく似通う部分を感じたからである。

もちろん二つの句集には互いに全く異なる領域、異なる感性の部分が沢山ある。しかし今回は敢えて同じ質感を感じるところを抜き出し、並べてみたいと思った。

それは、特に古田作品を読んですぐに感じとれることであろうが、決して易解ではないという部分と、それでいてすんなり口から流れ出てきたような感じのするところだ。

森須氏の句集の方は、生活実感に即して感覚よく面白く、万人に理解され得る句がたくさんある。しかし、そういった句の中にたまに、おやと思うような奇妙な感覚の句が存在しているのである。

以下、二つの句集についてそれぞれ御紹介する。

 

 

 

古田嘉彦句集「純粋雨期」

 

真っ白くさらっとした紙に、銀で大きく「純粋雨期」と書かれてある装丁が美しい。

序文や跋文のないシンプルな構成。最後に筆者の後書がある。

俳句作品は、最初の方の頁は信仰告白または信仰にまつわる日々の思いといった2~5行の文が句に添えられてあるが、途中から俳句のみになる。

時折図示を用いたりなど、通常の一本書作品とは違う俳句作品群で、世間では難解といわれる部類に入るのだろうが、与えられた文字を目にしてゆくうちに不思議と、それこそ雨後の透明な空気のようなものを感じる。後書のあと空白の紙が7頁くらい連ねられているのも余韻を感じさせる。

以下、目を惹いた作品を下に御紹介する。尚、添えられた文や図示作品に関しては今回は御紹介せず、次回以降の機会にと思う。

 

 

曼珠沙華両手でさわり不可避な婚姻

溶けていく魚の一部となった菫と

ほどきにくい薇の文字ほどいて水銀燈

有翼の鐘撞き用通路=口腔  全開

トルコ石より早い蒼穹  遅い菫

最後は冥王星  線画も青痣も断わる

精液ゼリー  糸で吊ったガラス工房と

影ごとに猫置く六月  空気遠近法

葉脈の純粋住居がそよぐ浴身

秋の水に列車浮かべて睡眠の定義

全体は密林だが今度の青は女だ

 

 

 

 

 

森須蘭句集「蒼空船(そらふね)

 

表紙は白地に蒼を基調として、飛ぶ帆船の絵が描かれてある。帆船が大きな本の中に入っていこうとする印象的な絵である。序文を前田弘氏、跋文を川名つぎお氏が書かれている。

各章の最初の頁に作者森須蘭氏と、その娘さんでいらっしゃる二人の俳人高遠朱音氏、宮坂翠氏らによるイラストが挿入されてある。また、句集に使用されてある紙から仄かに香が立ちのぼってくるという凝った造りだ。

俳句作品は、母であり妻である女性の生活を想わせるような、それでいて感覚鋭く面白い作品が沢山あるのだが、その中から特にこの感覚は瞠目だな、易解ではないなと思うものを選び挙げてみた。

 

 

雪原の匂い溜め込む片乳房

鳥類図鑑開く肺の奥まで時雨

一斉に音を外してゆく桜

空蟬は土星の記憶

冬天の鍵穴濡れてゆく螺旋

月球儀なぞる中指の囀り

うなじより男出てゆく薄暑かな

いぬふぐり空に窪みの残るかな

雪催い鼻は静かな活断層

 

その他、下記の句に心惹かれた。

 

氷海を安全ピンが留めている

春愁へ直滑降の娘たち

ら・ふらんす ひとり吊り橋の真ん中

春の山長男どっさり育ちます

かたつむり一生水平線にいる

全員が卵抱えている憂い

金木犀の音満ちてゆく夜明け

人の世の虹に小さな傷があり

中空に水の形の銀やんま

 

 

 

 

俳句の中に難解といわれる一角が確実にあると思われる。

「難解セクション」は、鑑賞し合うという楽しみ方の土俵から外れたり、読まれてもそのままおかれてしまう、といったことが現在多いのではないか。

「わからない」の一言でその後の進展が絶えてしまいがちな「難解セクション」であるがしかし、実際には読み手はその句を見て「何も感じない」「全く絵が浮かばない」のではなくて、その句に関して鑑賞を披露したり説明することが難しいのではないだろうか。

今回ご紹介した二氏のうち古田氏の作品は信仰が軸になっており、そのなかで御本人の脳内にフラッシュした映像のようなものが連ねられている印象だ。

一方で、森須氏の作品は生活から汲みあげた感覚の句のなかに時折不思議なものが紛れこんでいる。言葉が平易であるだけにその謎は手ごわい印象である。

私も、うまい鑑賞などは出来ないけれど、それが出来るまでずっと自分だけで溜め込んでいるのはもったいない。刺激をうけた作品をここにみて頂き、沢山の方に実際に感じて頂きたいと思うのだ。

 

 

 

 

森須蘭様、古田嘉彦様ご恵投有難うございました。

 

 


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